風が渡る草原のなかで子供が泣いている。
「…えっく、えっぐ…おねえちゃぁーん。ひっく…」
佐祐理はその子供が誰か気付き、駆け寄りながら声を掛ける。
「一弥!一弥なの!?」
その時急に風が強くなり、声が届かなくなる。
「一弥…」
近付く佐祐理。何故か悲しそうな目で一弥が見つめている。
手を延ばし、弟の体に触れようとした瞬間、目が覚めた。

「…一弥? どうして…」
ベットで半身を起こし、呆然としている佐祐理。
何故今、一弥の夢をみたのだろう? あの悲しげな表情は一体…
この時、佐祐理には分からなかった。



《夢桜〜reincarnation〜》




S1.<佐祐理の夢の中>

    風が渡る草原のなかで子供が泣いている。秋の夕暮時ぐらい?
    舞シナリオの、祐一が昔舞と会ったときのような風景。
 子供  「…えっく、えっぐ…おねえちゃぁーん。ひっく…」
    佐祐理はその子供が誰か気付き、駆け寄りながら声を掛ける。
佐祐理 「一弥!一弥なの!?」
    その時急に風が強くなり、声が届かなくなる。ならばと近付く
    佐祐理。何故か悲しそうな目で佐祐理を見つめる一弥。
佐祐理 「一弥…」
    悲しそうな弟に表情を曇らせながらも、弟の前にしゃがみこんで
    手を延ばしかける姉。だが、触れる直前に目覚めてしまう。



S2.<佐祐理の部屋・朝>

    ベッドで半身を起こし、呆然としている佐祐理。
佐祐理 「…一弥?どうして…」
    何故、今(現在、という意味で)一弥の夢をみたのだろう?
    あの悲しげな表情は一体…?この時の佐祐理には分からない。



S3.<現在・佐祐理の高校の卒業式>

    式の最中。正面から見た、着席している袴姿の佐祐理。
    視線を壇上からうつむき加減に下におろす。
佐祐理 (一弥…)
    悲しげに目を伏せる佐祐理。



S4.<回想シーン>

佐祐理 (6年前…一弥が死んだあの日から…私は)
    一弥の病室で、楽しそうに遊ぶ二人。
    (…私はずっと『本当の自分』というものが無かった気がする)
 教員 「弟さんが!弟さんが亡くなったってー!!」
    教室に響く、先生(女性)の叫び声。
    コマ変わって一弥の遺影、もしくは葬式風景を入れる。
佐祐理 (あの時、私は死のうと思った…。)
  自室。鏡の前で自分を見つめる佐祐理。手にはナイフ。
  母 「きゃああーっ!!佐祐理!さゆりー!!」
    鮮血に染まって倒れている佐祐理を見つけ、
    母親の絶叫が部屋中に響き渡る。

    鳴り響く救急車のサイレン



S5.<佐祐理の夢の中(あの世との境)・過去>

    霧の中…?歩いている佐祐理。不安そうに周りを見回す。
佐祐理 「…?ここは、一体…」
    佐祐理の前に、突然何物かが現れた。
    「…!? あなたは?」
  ? 「私は…死神です」
佐祐理 「死神…?」
    佐祐理は少し驚いたふうだったが、目を閉じて静かに頷いた。
    「そう…。私を迎えに来たのですね?覚悟は出来ています。
    何処へでも連れていって下さい」
 死神 「…何を言っているのですか?」
    死神は静かに続けた。
    「あなたはまだ連れていけません。弟さんとの約束があります
    からね」
佐祐理 「一弥との約束?」
 死神 「そう…。『願い事』を聞いたのですが、まだ、かなえてあげられ
    ないのです」
    佐祐理は驚いた。一弥は死神にどんな願い事をしたのだろう。
佐祐理 「教えて頂けませんか。あの子は、一弥は何を願ったのですか」
 死神 「…あの夜…」
    死神は一弥との約束を話しはじめた。



S6.<一弥の病室・回想>

    深夜の個室の病室で一弥が寝ている。そばのテーブルの上には
    ついさっき迄いた佐祐理の持ってきた『お菓子と水鉄砲』がある。
 一弥 「ごほっ…ごほっ…」
    苦しそうに咳き込むが、何故か急に呼吸がすうっと楽になる。
    そして一弥は部屋の中に何か気配を感じた。
    「…だあれ?」
    見るとそこには、いつのまにか誰か立っていた。
  ? 「私は死神です。…といって、解りますか?」
    一弥はきょとんとしている。
 一弥 「しにがみ…さん?」
 死神 「そうです。君を迎えに来ました」
 一弥 「むかえに?…でも、おそとかってにでると、ぼく、おこられちゃう」
    表情を曇らせる一弥。悲しいというより、やりたいことがあっても
    怯えて出来なくてあきらめた、という感じ。
 死神 「……」
    その様子を見てさすがに可哀想だと思ったのか、
    「そうだ、何かお願いはないかしら?」
 一弥 「お願い…?」
 死神 「そうねぇ…。海を見た事はある?お空を飛んでお月様を近くで見る
    のはどうかしら?」
    一弥の顔がパァッと華やいだ。
 一弥 「ホントに!?おそらをとべるの?うみにもいける?」
 死神 「ええ、本当よ」
 一弥 「うーん…」
    少し考えた様子の一弥だったが、ぱっと顔を上げて死神を見た。
    「じゃあねぇ…」
    一弥が『自分の望み』を言い始めた。



S7.<佐祐理の夢の中・S5に戻る>

 死神 「弟さんが最後に願ったことは…『お姉さんの本当の笑顔』です」
佐祐理 「−!! 私は…私は一弥に笑ってあげたかったの…」
    驚きの表情から、沈んだ表情になり、うつむく佐祐理。
    「…でも、できなくて。厳しくする事しか、私はしなかった…。
    一弥は優しく笑って欲しかったでしょうに」
 死神 「……」
佐祐理 「私は一弥を慰めてもあげられなかったし、誉めもしなかった!
    …笑ってすら…あげられなかった!」
    一粒の涙。声が震える。
    顔を上げ、涙も拭かず、死神を見る佐祐理。
    「私は…こんなひどい姉です。それなのに何故…」
 死神 「…弟さんは、あなたが自分を好いてくれていると知っていましたよ」
佐祐理 「!!! 」
 死神 「『ぼくはおねえちゃんにわらっていてほしい』…と」
    再びうつむき、呟くように佐祐理。
佐祐理 「笑って…?笑うなんて…できない。笑ってあげたい相手が…
    私にはもう、居なくなってしまったのだから…」
    (一弥…)
    幾筋もの涙が頬を伝う。
 死神 「だから、あなたを連れて行く訳にはいかないんです」
    くるりと背を向け、ぼやけていく死神。肩越しに
    「大丈夫ですよ。今はまだ居なくても、あなたが笑顔を向けられる人が
    いつかきっと現れることでしょう」
    そう言い残して、消える死神。



S8.<現在・卒業式風景>

  目を伏せている佐祐理。
  佐祐理は、はっと気付いた。今朝方みた夢…
佐祐理 (一弥の悲しそうな表情は、私がいまだに一弥のことを
   引きずっているからなの? だから、それを教えるために…)
  涙を人差し指でそっと拭う佐祐理。
  (…ごめんね、一弥。でも、これで終わりにするね。今の私には、
   一弥のほかにも笑ってあげられる人が居るんだものね)
  それはかつて無くした『本当の自分』を取り戻す、ということ。

司会者 「…では、次に卒業生答辞。卒業生代表、倉田佐祐理さん」
    その声にはっとして、我にかえる佐祐理。
佐祐理 「はいっ…」



S9.<卒業式終了後・校内・外>

    桜の下を袴姿の佐祐理と舞が歩いてくる。
    行く手の木下で待っている人物に気付く、佐祐理。
佐祐理 「祐一さん!」
 祐一 「よっ、おふたりさん」
    軽く片手を挙げる祐一。その手には桃色の花が二輪。
    歩み寄る三人。
 祐一 「はい、これ。卒業おめでとう!」
    一本ずつ手渡す祐一。
佐祐理 「わぁ…。ありがとうございます、祐一さん!」
  舞 「…ありがとう、祐一」
    それぞれに喜ぶ二人。そこに祐一が思い出したように、
 祐一 「そうだ。俺、カメラ持ってきたんだ。記念写真撮ろうよ」
    と、ポケットから使い捨てカメラを取り出す。そして、
    「…お、丁度いい所に。お−い、香織−!」
    少し向こうを通りがかった香織がいぶかしげに近付いてきた。
 祐一 「わりィ、撮ってくれ」
    そう言いながら、カメラを差し出す。
    香織は「はぁっ…」と呆れたように溜息をつくが、
    「いいわよ」とカメラを受け取った。
 香織 「はーい、撮りまーす!」

    三人での『記念写真』。無表情ながら一寸頬を染めて照れたような
    舞の左腕と、楽しそうな祐一の右腕を、両手で真ん中に引き寄せて
    嬉しそうにする佐祐理。三人揃った時にしか見せない笑顔。
    …このとき佐祐理は『本当の笑顔』を浮かべていた…

佐祐理 (…そうだ、会えたんだ! 一緒に幸せになりたいと思える相手に。
    大切なこの二人に!! あなた達に!!)


    < FIN >      2000/06/09.津山拝