プロローグ
「これ以上、私を巻き込まないで下さい」
それは拒絶の意思。自分で決めた、凍りつかせた温もり。
(…最初から、こうすべきだったんだ)
少女の心の中は、今も閉ざされていた…
◆一枚絵で。ロングからややフカシ気味の全身美汐が立っている。台詞はフキダシ
ではなく、四角い枠の中でカギ括弧にし、(…最初から、〜)は、そのまま書けば
いいのでは。
《新しい一歩》
授業終了後(放課後?)の教室〜廊下
(あの人は…、あの子は今頃どうしているのだろう…)
考えながら教室を出てくる美汐。
◆横顔アップ、傾き加減…か?
廊下に出ると、少し先で一年の女子生徒たち数人が喋っている。程なく話は済ん
だらしく、口々に別れの言葉を交わして廊下を走り去っていった。ただ一人、澄ん
だ青い瞳の焦茶色のショートカットの少女以外は。この少女は教室の中に忘れ物を
したらしいのだが、美汐が通りかかった時貧血でも起こしたように倒れてしまう。
助け起こしはしたものの、周りを見ても、他にこの少女を保健室に連れていけそ
うな人はいなかった。(誰もいなかった)
◆美汐と栞(!)の出会い。栞と美汐を会わせてみました。でも、ことさら栞だと
読者に説明することもないと思う。理由としては絵で多分、分かるだろうから。あ
と半分は、実はこの場合栞じゃなくても別に良かったりするので。
保健室
保健室に少女と美汐、保険医の三人がいる。ベッドに寝ている少女。後を保険医
に託し、退室しようとする美汐。保険医が、少女が起きた時に聞くかもしれないか
らと、クラスや氏名を美汐に問いかける。
「それには及びません。では失礼します…」
そっけなく言いながら、保健室の扉に手をかける美汐。その時、突然室内の空気
が変わった。
「…?」
室内に背を向けていた美汐も異変に気づいて動きを止める。その背に向かって、
「お久しぶりです。…お元気でしたか?」
「…!?」
投げかけられた声に何かを感じて、一気に振り返る美汐。
そこに居たのは、ベッドの上で半身を起こした先刻の少女だった。気を失ってい
るのか、保険医は机の上に突っ伏したまま動かない。
「…ひとの心を避けるようになってしまわれたんですね」
「…あなたは、まさか…」
さっきまでの少女のものとは明らかに違う、けものの瞳。その目は美汐の悲しい
記憶の中のものである筈だった。
「どうして…」
「…あの時肉体は消えてしまいましたが、小さな意識が残っていたようなんです」
「残留思念…?」
「まあ…そうですね。で、貴女の事が気になって来てしまったんですが…」
「…」
「僕のせい、ですよね?」
少し悲しげな表情をする少女。
俯く美汐。
「それで…貴女にお話ししたい事があって、この少女の身体を勝手にお借りしてし
まいました」
「じゃあ、倒れたのも…?」
「いいえ。この少女が意識を失っていたから、僕は借りることができたんです。こ
のお嬢さんは身体が、かなり…悪いようなんです」
少女の身体がそれ程の病気かなにかであるらしい事を聞いて、驚く美汐。
「だって、さっきは…」
廊下で、友達らしき数人と喋っていたのを思い出す。
「繰り返すようですが、この子の身体の具合は…、はっきり言ってあまり良くあり
ません」
「…」
「それは本人もはっきり自覚しています。自分の運命に納得はしていないかもしれ
ない。しかしその上で、自分の意思で選択したんです。学校に来る事を。そして、
精一杯笑顔でいることを」
「自分の…意思で…」
「限られた選択肢の中、仲間に、みんなに『笑っている自分』を憶えていてほしい
と願って…」
悲しい眼差しをやや斜め前方に向けながら話す。少女の中の狐。美汐も俯いたま
ま、扉の前で聞き入っていた。
「…そして、それは僕も同じなんです」
言いながら美汐に目を向ける少女。顔をあげて美汐と視線が絡む。
「同じ…?」
うなずく少女。
「自分に与えられた選択肢のなかで、僕は自分の意思による選択をした。それにつ
いては後悔していません。しかし…」
一旦言葉を切り、悲しい表情を浮かべる少女。
「僕は貴女にそうなってほしいと…そんな風になって欲しくて、貴女に会いに行っ
たんじゃありません」
「でも、私は…!」
言い掛ける美汐を、首を振って優しく制する少女。
「いいんですよ、僕の事は。それより、今の貴女には出来る事がある筈です」
「できる…事?」
「僕の仲間がいましたでしょう? かつての僕たちと同じような境遇のお二方が」
「!」
美汐はもう分かっていた。狐が『あの二人』の事を言っているのだと。
「どうか、お願いです。悲しい過去に心を閉ざさず、貴女にでき得る事をして差し
上げてください。そして…」
そして、狐は最後にこう言ったのだった。
『新しい一歩を踏み出して下さい』、と。
◆長い…ですね。でも、今回、テーマにしたいのは『悲しい過去を引きずるのをや
め、新しく前に踏みだす』というものですから。もちろん、それに付随するものと
して、『運命という限られた選択肢の中での、自分の意思による決定』というのも
あるにはあるんですが。だけどまあ、今回は前記の方、『新しく、前へ』でいいの
ではないでしょうか?
駅前の公衆電話
電話ボックスの中の美汐。呼び出し音が聞こえる。
「はい、水瀬です」
受話器の向こうから、落ち着いた優しそうな女性の声が聞こえてきた。
ほんの一瞬、受話器をしっかりと持ち直す美汐。
「…天野と申します。あの、相沢さんは…」
◆ほとんどエピローグですね。
電話してる途中でフェード・アウト、で良いと思います。
〜Fin〜
2001/01/26. 不如帰横浜開発室